2012年9月12日水曜日

イタリアサッカーにおける共同保有権制度/ Co-ownership system in Italian Football

サッカーファンの間で多くの混乱と誤解を生んでいるセリエA及び
下部リーグにおける選手の共同保有権問題について解説しよう。
このイタリア独特の制度は長い間、ファン及びサッカー関係者の間で
議論の対象となってきた。そして多くの場合、懐疑的な目で見られて
いたことも事実だ。

しかしながらこの制度は上手く利用すれば、関係クラブのコスト削減
という観点からだけでなく、取引に関わった3者全員(両クラブそして
選手本人)にとって莫大な恩恵をもたらすものなのである。
実際に最近のイタリア代表を見てみても、ほとんどの選手がキャリアの
初期にこの制度の元で移籍を経験しているのが判るだろう。

悲しい事にユベントスの元スポーツ・ディレクター、アレッシオ・セッコ
(ユベントスの元SD、クリッシートの移籍に関して不正が有ったとされ
同クラブを解任されている)の行った多くの悪名高き取引の為、未だ
にこの制度はサポーターの間では取引の裏に何かが隠されている
のではないかと疑問視されることも多い。




共同保有、イタリア語で"compartecipazione”と呼ばれるこの制度は
2つのクラブが選手の保有権を50%づつ持つ制度である。もちろん選手は
この2つのクラブの内、どちらかでしか試合には出場出来ない。
一般的にはビッグクラブとプロビンチャが保有権を持ち合い、実際に
選手登録されるのはプロビンチャの方になることが多い。

このシステムはイタリア以外でもアルゼンチン、チリ、ウルグアイ等で
良く利用されていたが、それらの国々では最近はカルロス・テベスの
マンチェスター・シティへの移籍の例に見られる様に第3者が所有権を
持つ方向にシフトしている。

共同保有権制度の一番の利点は、経営規模の小さなクラブが通常の
移籍では獲得が難しいような有望な若手選手と契約できることにあると
信じられている。 これは部分的には正しい・・・加えて保有権の半分を
持つ事で小規模なクラブは単純なレンタル移籍(しばしば貸出元の
クラブの都合で一方的にキャンセルされたりする)で選手を借りるよりも
ずっと選手をコントロール出来る。
またビッグクラブはこの様な小さなクラブから選手を獲得する場合に
しばしば取引材料として他の若手選手の保有権の半分を差しだす事も
ある。

選手にとっては共同保有での移籍は別の意味も持つ。借り入れる側の
クラブも金銭的な投資を伴う共同保有形式での移籍は、一般的に
単純なレンタル形式での移籍よりも出場機会が与えられる場合が多い
のである(フェデリコ・マケダがサンプドリアで無駄にした6か月を覚えて
いるだろうか)。
さらに貸出元のクラブにとっても多くの場合、有望な若手選手を
プレッシャーの少ない環境で、多くの出場機会を与えることで成長させる
ことが出来るのメリットがある。

コンセプトを明瞭にするために、2つの架空の例を考える事にしよう。
ローマは才能ある20歳のストライカーを2人抱えていたが、トップチーム
には既に多くのストライカーが居るため、彼らを昇格させるのは難しい。
そこでローマは1人をボローニャにレンタルし、もう1人は所有権の半分を
シエナに300万ユーロで売却して移籍させた。

前者はほとんどの時間をベンチを温めて過ごし、シーズン終了後に
スタディオ・オリンピコに経験不足のまま、1歳年をとっただけで帰って来た。
もちろんクラブの自分に対する態度にも幻滅を感じている。

対照的に後者は金銭的対価が支払われたこともあり、シエナで出場
機会を与えられた。結果として彼はレギュラーポジションを確保し、多くの
ゴールも決める事が出来た。シーズン終了後、ローマは彼を呼び戻す
ことにした。トッティの横でプレーさせる為に、シエナに売却した所有権の
半分を550万ユーロで買い戻したのである。

最初はこの制度に不慣れな人達はこう思うだろう。シエナは当初、
選手の所有権の半分を購入する為に300万ユーロを払った、それが
どうして1年後に550万ユーロになるのかと。しかし選手がこの移籍で
得た経験や自信については単純にお金には換算できないのである。
この差額をローマはこの選手への投資と捉え、シエナは選手に出場
機会を与え、成長させた事の見返りとして受け取るのである。

もしこのFWが伸び悩み、セリエAでプレイするレベルにないと証明
することになったとしてもローマは当初の300万ユーロは受け取って
いるし、加えてこの選手への評価を手元に置いておくよりも、ずっと
早く定める事が出来るのである。



もちろん貸出元のクラブが選手の価値を大きく見誤った為に多額の
損失を出した例もある。近年、もっとも有名な例はアドリアーノの一件
だろう。 2002年、インテルはこのブラジル人ストライカーの所有権の
半分を450万ユーロでパルマに売却したが、彼が36試合で22得点を
決めた後で50%を買い戻すのには1,500万ユーロを要したのである。

憶えていなければならない重要なポイントは、FIGC(イタリアサッカー
連盟)の規則で、共同保有契約は厳格なガイドラインに沿って運用
されるように指示されていることだ。
毎年6月末が近づくと両クラブは共同保有契約を更新するか否かの
話し合いを行わなくてはならない。
つまり・・・
(1)所有権を50%づつ持ちあったまま、もう1年間どちらかのクラブで
  プレーさせる。
(2)どちらかのクラブが相手チームの持っている所有権の半分を
  買い取る。金額は両クラブで協議する。

期限までに上の2つのどちらの合意にも至らなかった選手については、
両クラブによる競争入札が行われ、より高い金額を提示したクラブが
相手クラブが持つ”所有権の50%”を買取ることになる。

一般的に経営者たちは選手を市場価値より低い値段で手放す
ことや、手元に置いておきたい選手の入札で敗北する事も嫌うため、
出来るだけ競争入札になることを避けようとする傾向にある。



数年前、フィオレンティーナがクラブ消滅の危機から立ち直り再び
セリエAに戻って来た時、彼等はキエッリーニ、ミッコリ、マレスカの
3人の所有権の半分を獲得するために1,350万ユーロを支払ったが、
1年後に競争入札に敗れたため、そのすべてを失い。670万ユーロの
損失を出した。
当時のフィオレンティーナの財務状態は不安定で有った為、3人の入札に
高値をつけるのが難しいと判断したルチアーノ・モッジ(カルチョポリで
有名な元ユベントスGM、プロビンチャから選手を獲得する際に必ず若手の
共同保有権を使って値引きさせるのが常套手段だった)に才能ある
3人を格安で買い叩かれたのである。

上記の例の様に入札に失敗すると周囲から激しい非難を浴びることも
多い為、当然ながらクラブの経営陣は入札になることを非常に怖れる。
その為、ほとんどの共同保有のケースでは問題は話し合いで解決される
(貸出元のビッグクラブが競争入札になるのを嫌った結果、期待の若手が
思ったよりも長くプロビンチャに留まることも多い)。

つまり共同保有制度は大局的に判断すると、一方のクラブには彼等の
貴重な戦力となる選手を与え、もう一方のクラブには才能ある若者に
成長の機会を与える事が出来る素晴らしい制度なのである。
近年の例で言えばアバーテやジョビンコがその良い証拠となるだろう。
この制度が無ければ彼等はその才能を磨くどころか、グラウンドに
立つ機会も無かったのだろうから。